福祉の現場では、支援する側とされる側の立場に大きな差があります。
だからこそ、わずかな言葉や仕草が「セクハラ」とされることがあります。
それは、相手が守られるべき立場であるという前提のもとに、常に慎重な関わりが求められるからです。

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1.セクハラとは何か

セクシュアル・ハラスメントとは、性的な言葉や態度、視線、接触などによって、相手に不快感や羞恥心、恐怖心を与える行為を指します。
冗談や親しみのつもりでも、相手が不快に感じた時点で、それはセクハラになります。
福祉の職場では、利用者や家族に対してだけでなく、職員同士の間でも同様に注意が必要です。

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2.児童へのセクハラ

放課後等デイサービスや児童発達支援などでの児童への性的言動は、児童福祉法や児童虐待防止法で「性的虐待」にあたる場合があります。
特に次のような行為は、冗談でも決して許されません。

・体への不必要な接触(胸、太もも、腰など)
・性別や体型、服装に関する発言
・性的な話題や冗談
・写真や動画の無断撮影

こうした言動は、児童の発達や心の安全を著しく損なう行為です。

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3.障がいサービス利用者へのセクハラ

障がいのある方は、意思表示が難しかったり、状況を理解する力に差がある場合があります。
そのため、介助や支援の場で「無意識のハラスメント」が起きやすいのが特徴です。

・介助中の身体接触は必要最小限とする
・入浴や更衣時にはプライバシー確保を徹底する
・写真撮影や身体に関する発言は慎重に行う
・障がい特性による性的な発言があっても、感情的に反応せず、専門的支援で対応する

支援者は「支援」と「侵害」の境界を常に意識する必要があります。

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4.高齢者へのセクハラ

介護の場では、身体に触れる機会が多いため、誤解やトラブルが起こりやすい領域です。
職員から利用者への行為だけでなく、利用者から職員への性的発言や接触も含まれます。

職員→利用者:
・不必要な接触、容姿や年齢への言及
・「若いね」「きれいだね」などの軽口

利用者→職員:
・認知症の症状としての性的言動

後者の場合は本人を責めず、症状として理解し、記録・共有・相談を徹底することが求められます。
一人で抱えず、チームで対応することが現場の安全を守ります。

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5.セクハラ防止の法的根拠

・労働施策総合推進法(旧男女雇用機会均等法)第11条
・児童福祉法第33条の2
・障害者虐待防止法第2条
・介護保険法第115条の45
・厚生労働省「福祉・介護職員のハラスメント対策の手引き」(令和2年)

これらの法令では、セクハラは単なるトラブルではなく、人権侵害・虐待として位置づけられています。

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6.まとめ

福祉の現場でのセクハラは、「支援」と「侵害」の境界を誤った瞬間に起こります。
それは、心に見えない傷を残す行為です。
支援者一人ひとりが「尊厳を守る姿勢」を持つことで、現場の安心と信頼は育まれます。
何よりも、「相手の心を守る」ことが福祉の原点です。