利益3年分では買われない福祉事業の現実が、2025年の福祉M&A市場ではっきりしてきました。かつては営業利益の2年分から3年分という目安で語られることもありましたが、いまはその単純な基準だけでは価格は決まりません。
なぜ、利益が出ている福祉事業でも高く評価されないのでしょうか。答えは、買い手が見ているポイントが変わったからです。
第一に、利益の再現性です。
現在の利益が、特定の創業者や管理者の個人能力に依存していないか。加算取得が無理な人員配置や一時的な体制で成り立っていないか。引き継いだ後も同じ水準で運営できるのかが、厳しく見られています。福祉M&Aにおいては、単年の実績よりも、3年後も続く設計かどうかが重視されます。
第二に、人材構造です。
離職率、サービス管理責任者や児童発達支援管理責任者の安定性、管理者層の厚み。利益が出ていても、キーパーソンが一人抜ければ崩れる体制であれば評価は伸びません。役割分担が明確で属人化していない事業は、安定性という資産として評価されます。障がい福祉分野では特に、この人材構造が事業価値を左右します。
第三に、制度耐性です。
実地指導への対応状況、記録整備の精度、加算算定の根拠の明確さ。ここに弱さがあると、将来の返還リスクや行政指導リスクが価格に織り込まれます。2025年の福祉M&Aでは、利益の大きさよりもリスクの小ささが優先される傾向が強まっています。制度に強い事業は、それだけで買い手の安心材料になります。
第四に、地域での存在価値です。競合状況、重度や強度行動障がいへの対応力、医療や相談支援との連携体制。単体の利益ではなく、地域にとって代替しにくい事業かどうかが問われています。事業承継の観点でも、地域から必要とされているかどうかは重要な評価軸です。
つまり、利益3年分という計算式では測れない構造が、福祉事業の価値を決めているのです。
これは悲観すべき話ではありません。整えるべきポイントが明確になったということです。再現性のある運営設計、人材の多層化、制度に強い記録体制、地域に根ざしたポジション。この構造を整えた事業は、利益以上の評価を得ています。
2025年の福祉M&Aは、規模よりも構造を見ています。数字だけでなく、壊れにくさ、引き継ぎやすさ、続けやすさが価値になる時代です。
利益を否定する必要はありません。ただし、利益だけでは足りない。それが、利益3年分では買われない福祉事業の現実です。
これからの福祉経営は、売るためではなく、続けるために構造を整えること。その結果として正しく評価される事業になる。その順番が、これからの時代には重要です。

